社長コラム
悲劇の始まり(5回表)
2025年7月 1日掲載
我が家の犬、ピカがとある病院に行った日。
その日から悲劇が始まったと言っていいであろう。
院長からの通告は我々夫婦にとっておおよそ予想もつかないことであった。
「この子、肝臓が動いていないよ」
自分の頭が真っ白になっていくのがわかる。
なぜ、こんな変な表現なのか、というと
既に「わかりやすく頭が真っ白のヒト」が隣にいたからである。
私も今、こんな感じで狼狽しているのだと
想像ができるのだ。
院長の言葉は、まるで興味のないTVCMのセリフさながら
私達夫婦の周りの空気に書かれた五線譜の音符の様に
むなしく踊り続けている。
ふと妻が我に返る。
院長の言葉を遮り、頼もしく発言する。
「今はどういう状態でしょうか?」
「原因はなんでしょうか?」
「今後はどうしたらいいのでしょうか?」
院長は乾いた聞きやすい声で
「今は肝臓が動いていないとしか言えない。黒い便は肝不全による血便の証拠」
「原因はわからないが、先天的なものかもしれない。精密検査が必要」
「高度医療が必要なため、東京大学付属動物医療センターを紹介します」
帰りの道で涙ながらにピカに話しかける妻。
こうして悲劇の幕は上がったのである。
(5回裏へ続く)